東京地方裁判所 昭和62年(ワ)11044号 判決 1994年4月08日
東京都港区赤坂七丁目一番一六号
原告
ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社
右代表者代表取締役
ジェイムス・エル・タイリー
右訴訟代理人弁護士
田倉整
同
松尾翼
同
奥野泰久
神奈川県厚木市戸田五五番地の一
被告
インターナショナル・トイレツリース株式会社
右代表者代表取締役
伊藤正敏
右訴訟代理人弁護士
一木剛太郎
同
竹野康造
右訴訟復代理人弁護士
石黒徹
同
三浦健
同
柳志郎
東京都豊島区西巣鴨一丁目二一番四号
被告
株式会社ギンビ
右代表者代表取締役
菅野忠
東京都豊島区西巣鴨一丁目二一番四号
被告
株式会社日本シーランド
右代表者代表取締役
菅野忠
東京都渋谷区桜丘町二番九号
被告
株式会社日本シーブリーズ
右代表者代表取締役
菅野忠
右被告株式会社ギンビ、同日本シーランド及び
藤田一伯
同日本シーブリーズ訴訟代理人弁護士
同
堀越靖司
同
大川宏
主文
一 被告インターナショナル・トイレツリース株式会社は、別紙商品表示記載の容器包装についての商品表示を使用し、又はこれを使用した商品を製造、販売、頒布してはならない。
二 被告株式会社ギンビ及び同株式会社日本シーランドは、別紙商品表示記載の容器包装についての商品表示を使用した商品を販売してはならない。
三 被告インターナショナル・トイレツリース株式会社、同株式会社ギンビ及び同株式会社日本シーランドは、現に占有する別紙容器目録中の第一図及び第六図に表示される各容器及び同表示を印刷する原盤を廃棄せよ。
四 被告インターナショナル・トイレツリース株式会社は、原告に対し、金三六四五万二〇〇〇円及び内金一四五八万〇八〇〇円に対する昭和六三年六月一日から、内金二一八七万一二〇〇円に対する平成三年六月一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 被告株式会社ギンビ及び同株式会社日本シーランドは、原告に対し、連帯して金三九二五万六〇〇〇円及び内金一五七〇万二四〇〇円に対する昭和六三年六月一日から、内金二三五五万三六〇〇円に対する平成三年六月一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
六 被告株式会社日本シーブリーズは、「株式会社日本シーブリーズ」の商号若しくは「シーブリーズ」の表示を使用し、又は右商号若しくは表示を使用した商品を販売若しくは拡布してはならない。
七 被告株式会社日本シーブリーズは、昭和四六年八月三〇日東京法務局渋谷出張所においてした登記のうち、「株式会社日本シーブリーズ」の商号の抹消登記手続をせよ。
八 原告のその余の請求を棄却する。
九 訴訟費用は、これを四分し、その一を原告の負担とし、その余は被告らの負担とする。
十 この判決の第一ないし第六項は仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 主文第一ないし第三項、第六及び第七項と同旨。
2 被告インターナショナル・トイレツリース株式会社は、別紙成分表記載と同一成分の商品を製造、販売、頒布してはならない。
3 被告株式会社ギンビ及び同株式会社日本シーランドは、別紙成分表記載と同一成分の商品を販売してはならない。
4 被告インターナショナル・トイレツリース株式会社は、原告に対し、金九一一三万円及び内金三六四五万二〇〇〇円に対する昭和六三年六月一日から、内金五四六七万八〇〇〇円に対する平成三年六月一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
5 被告株式会社ギンビ及び同株式会社日本シーランドは、原告に対し、連帯して金九八一四万円及び内金三九二五万六〇〇〇円に対する昭和六三年六月一日から、内金五八八八万四〇〇〇円に対する平成三年六月一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
6 訴訟費用は被告らの負担とする。
7 右1の内の主文第七項を除き、仮執行の宣言。
二 請求の趣旨に対する被告らの答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、平成二年一〇月、ブリストル・マイヤーズ株式会社(以下「旧ブリストル社」という。)を吸収合併し、その権利義務の一切を承継した。
2 被告ギンビ、同シーランド及び同インターナショナルに対する不正競争防止法一条一項一号に基づく差止及び損害賠償請求
(一) 旧ブリストル社は、昭和五六年一〇月一日以来、我が国において「シーブリーズ・アンティセプティック」という商品名の薬用ローション(以下「原告商品」という。)を製造販売し、同社を吸収合併した原告も引き続き原告商品を製造販売している(以下、原告と旧ブリストル社を合わせて「原告等」という。)。
原告商品の容器は、当初、別紙容器目録記載の原告第一容器であったが、昭和五七年一〇月頃、同目録記載の原告第二容器に、昭和五九年一一月頃、同目録記載の原告第三容器にそれぞれ変更している(以下、原告第一ないし第三容器を「原告容器」と総称することがある。)。
(二) 原告等の商品表示及び営業表示
原告商品の容器として使用された別紙容器目録記載の原告第一ないし第三容器は、いずれも次のような共通の特徴を有している。すなわち、プッシュアップ式のキャップを上部に有する純白色の円筒型ポリ容器(縦横比約二・五対一)であり、その正面において、容器上部に青色の「FOR PROFESSIONAL & FAMILY USE」、その下に青色の「薬用ローション」等の文字、その下に大きく余白を置いて、中央部に、縦長方形の青色地に白抜きの帆のマークの商標と、その左下に淡緑色又は青色で太字二段の「SEA BREEZE」の商標、その下に青色の「ANTISEPTIC」等、その下に青色の「SKIN AND SCALP」、その下に小さく余白をおいて淡緑色で英文の成分表示、更に余白を置いて下段に青色で容量等が、いずれも水平方向に記載されており、これらが純白地の余白の多い構成で、青色と淡緑色を基調として、上段から下段まで平行して整然と配列されている。
このような表示の円筒型容器は、少なくとも被告らの製造販売にかかる後記商品を除いては、他に見られないものであり、通常の取引者及び需要者に与える印象、記憶に鑑みれば、いずれにおいても独自の商品識別機能、出所表示機能を有するものである。
また、右表示の要部を構成している別紙商標目録(一)記載の「SEA BREEZE」、その呼称である「シーブリーズ」及び同目録(二)記載の帆のマークは、いずれも旧ブリストル社及びその営業を引き継いだ原告の営業を表示する機能を持つものである。
(三) 周知性の取得
(1) 旧ブリストル社は、販売に着手した昭和五六年一〇月からは、全国に存在する理美容院や小売店のポスター、パンフレット等、昭和五七年五月からは全国に購読者層を持つ雑誌、さらに昭和五八年六月からは全国ネットのテレビ放送など、さまざまな宣伝広告活動を行い、原告も引き続き同様の宣伝広告活動を行っている。これらの広告はすべてカラーであり、その広告においては、例外なく原告第一ないし第三容器、別紙商標目録(一)記載の「SEA BREEZE」、同目録(二)記載の帆のマーク若しくはこれらを組み合わせた同目録(三)記載の商標が表示されている。
(2) 原告等は、原告商品の需要家層を日本全国の理美容院及び一般消費者に拡大し、かつ、販売量を飛躍的に増大させている。すなわち、旧ブリストル社の昭和五六年一〇月から昭和六一年一二月までの原告商品の販売数量及び販売高は、次のとおりである。
販売数量 販売高
昭和五六年(三か月間) 約四〇万本 約二億〇六〇〇万円
昭和五七年 約一四七万本 約七億八七〇〇万円
昭和五八年 約一八六万本 約九億六九〇〇万円
昭和五九年 約二八一万本 約一四億二〇〇〇万円
昭和六〇年 約三五〇万本 約一八億五二〇〇万円
昭和六一年 約二二一万本 約六億五二〇〇万円
(3) 以上のとおりであるから、原告第一ないし第三容器は、遅くとも昭和六〇年末までに、旧ブリストル社の製造販売にかかる原告商品を表示するものとして、取引業者のみならず一般需要者に広く認識されるようになり(商品表示の周知性)、また、「SEA BREEZE」の文字、「シーブリーズ」の呼称及び帆のマークは、いずれも旧ブリストル社及びこの営業等一切を引き継いだ原告の営業を表示するものとして広く認識されるようになった(営業表示の周知性)。
(四) 被告商品の製造販売行為等について
(1) 被告商品の製造販売について
被告株式会社ギンビ(以下「被告ギンビ」という。)及び被告株式会社日本シーランド(以下「被告シーランド」という。)は、昭和六一年六月一日から、「SEA LAND」(シーランド)との商品名の薬用ローション(以下「被告商品」という。)の販売を開始した。そして、被告インターナショナル・トイレツリース株式会社(以下「被告インターナショナル」という。)は、被告シーランドの委託によって右商品を製造している。
被告商品の容器は、当初、別紙容器目録記載のイ号容器であったが、昭和六一年一一月頃同目録記載のロ号容器に、昭和六二年五月末頃同目録記載のハ号容器にそれぞれ変更している。
(2) 被告商品の各容器の形状・色彩等について
イ イ号容器は、プッシュアップ式のキャップを上部に有する純白色の円筒型容器(縦横比約三対一)であり、その正面において、容器上部に青色の「FOR PROFESSIONAL & FAMILY USE」、その下に青色の「皮膚の清浄・薬用ローション」、その下に大きく余白をとって、中央部に、縦長方向の青色地に白抜きで星のマークとその左下の淡緑色で太字二段の「SEA LAND」、その下に青色の「ANTISEPTIC」、その下に余白をおいて青色の「SKIN AND SCALP」、その下に小さく余白をおいて淡緑色で英文の成分表示、更に余白を置いて下段に青色で容量等が、いずれも水平方向に記載されており、これらが、純白色地に余白の多い構成で、青色と淡緑色を基調として、上段から下段まで整然と配列されている。
ロ ロ号容器は、プッシュアップ式のキャップを上部に有する純白色の円筒型容器(縦横比約三対一)であり、その容器上部に青色の「FOR PROFESSIONAL & FAMILY USE」、その下に青色の「皮膚の清浄・薬用ローション」、その下に大きく余白をとって、中央部に、縦長方向の青色地に白抜きで星のマークとその左下の銀色で太字二段の「SEA LAND」、その下に青色の「ANTISEPTIC」、その下に余白をおいて青色の「SKIN AND SCALP」、その下に大きく余白をおいて下段に青色で容量等が、いずれも水平方向に記載されており、これらが、純白色地に余白の多い構成で、青色を基調として、上段から下段まで整然と配列されている。
ハ ハ号容器は、プッシュアップ式のキャップを上部に有する純白色の円筒型容器(縦横比約三対一)であり、その正面において、容器上部に青色の「FOR PROFESSIONAL & FAMILY USE」、その下に青色の「皮膚の清浄・全身薬用ローション」、その下に大きく余白をとって、中央部に、縦長方向の青色地に白抜きで星のマークとその左下の銀色で太字二段の「SEA LAND」、その下に青色の「MEDICATED LOTION」、その下に余白をおいて青色の「SKIN AND SCALP」、その下に大きく余白をおいて下段に青色で容量等が、いずれも水平方向に記載されており、これらが、純白色地に余白の多い構成で、青色を基調として、上段から下段まで平行して整然と配列されている。
(五) 原告商品の容器と被告商品の容器との類否
(1) 原告商品の容器と被告商品の容器とは酷似している。
すなわち、両者は、ほぼ同一形状のキャップであること、縦横比こそ、若干異なるが純白色の円筒型ポリ容器であること、容器上部に青色の同一英文文字、その下に青色の「薬用ローション」を含む文字、その下に大きく余白を置いて、中央部に、縦長方向の青色地に白抜きの図形とその左下の青色または淡緑色ないしは銀色で太字二段の英文商品名、その下に青色の英文文字、更に余白を置いて青色で容量等が、いずれも水平方向に記載されていること、これらが純白色地に余白の多い構成であること、青色と淡緑色を基調に含むこと、上段から下段まで平行して整然と配列されていること等の諸点において、両容器が酷似していることは明らかである。
(2) 殊に、表示の要部と考えられる容器の正面中央部を比較検討すれば、a.文字・図形を三層に組み合わせていること、b.上層では青色縦長方向の図形に白抜きの図形とその左横に右長方形底辺の延長線上に文字底部が接するようにして「SAE」の文字、c.中層では、「SEA」と同一書体の英文文字、d.下層では、書体をやや小さくし、細くして青色の「ANTISEPTIC」又は「MEDICATED LOTION」の文字を置き、e.その周囲に十分な白色の余白を取っていること等、取引者、需要者に及ぼす印象、記憶を構成する主要な表示上の特徴において共通しているから、f.白抜きの図形が原告商品の容器では帆であるのに対して、被告商品のそれが星であること、g.中層の文字が、原告商品の容器では「BREEZE」であるのに対して、被告商品の容器では「LAND」であること、h.原告商品の容器の「SEA」「BREEZE」は青色ないし淡緑色であるのに対して、ロ号及びハ号容器の「SEA」「LAND」は銀色であること等の細部において相違するものの、異なる時期と場所において観察すると、取引者・需要者の印象、記憶はほぼ同一であると考えられ、極めて類似しているということができる。
(3) したがって、原告と被告らの容器は、それぞれの表示の要部というべき容器正面中央の部分において極めて類似しているのであり、ましてそれほど差異を見いだせないその他の表示部分をも考慮に入れれば、一層強い類似性が認められる。すなわち、いずれについても、容器の形状、大きさ、文字の色調、書体、用いられている文言、中央に標章を置くレイアウト、全体のレイアウトが悉く類似している(更に、容器裏面、包装箱も類似している)のであり、通常の取引者、需要者の印象、記憶に影響を及ぼすべき主要な要素は同一である。少なくとも、離隔的に考察した場合において、両者は殆ど同一商品との印象、記憶を与えるものである。
(六) 被告商品は、被告らが前記のような容器を使用することにより、原告の製造販売する原告商品であるかのように、取引者・一般需要者に誤認混同されるおそれがある。殊に、被告ギンビは全国に数多くの販売代理店を有し、強力かつ広範囲の商品販売網を有しているので、誤認混同の危険性は極めて重大である。のみならず、被告ギンビ傘下の販売代理店の中には、被告商品を販売するに際し、「理美容専用のシーブリーズが名前を変えて新登場」、「あのシーブリーズが新しくなって登場」、「(シーランドは)シーブリーズの生まれかわり」等と宣伝した者も少なくなく、現実に製造販売主体の誤認混同を生じている。このような事態により、被告らの行為は、原告の売上高に影響を及ぼし、その営業上の利益を害している。
(七) 以上のように、被告インターナショナル、同ギンビ及び同シーランドが薬用ローションを販売するに当たり、イ号、ロ号及びハ号容器を使用する行為は、不正競争防止法一条一項一号に該当するので、原告は、右被告らに対し、別紙商品表示記載の容器包装についての商品表示の使用等差止を求めるとともに、右被告らには故意又は過失があったから、不正競争防止法一条ノ二第一項の規定に基づき、損害賠償を求める。
3 被告インターナショナルに対する本件製造委託契約に基づく差止及び損害賠償請求
(一) 旧ブリストル社は、昭和五七年五月一九日、被告インターナショナルとの間に、化粧品及び医薬部外品等の製造及び小分包装委託等に関する契約(以下「本件製造委託契約」という。)を締結した。同契約には、次のような条項がある。
(1) 被告インターナショナルは、旧ブリストル社が依頼する化粧品及び医薬部外品等に類似する製品を製造又は販売しない(第二条)。
(2) 被告インターナショナルは、旧ブリストル社の化粧品及び医薬部外品等の製造及び小分包装につき、必要な指図書、仕様書、製品規格書及び試験方法を提供されたこれらの書類が旧ブリストル社の所有に属することを認め、これらの書類の秘密保持のため、一切の必要な手段をとり、かつ第三者に対して漏洩してはならず、それらを旧ブリストル社の化粧品及び医薬部外品等の製造及び小分包装のためにのみ使用し、それ以外の他の目的のためには決して使用しない(第五条)。
(3) 被告インターナショナルは、化粧品及び医薬部外品等の製造にかかる処方、製造方法等を原告の製品を製造するためにのみ使用し、第三者に漏洩したり、自己又は第三者のために流用しない(第一二条)。
(二) 旧ブリストル社は、本件製造委託契約に基づき、被告インターナショナルに対し、化粧品及び医薬部外品等に関し、旧ブリストル社が有する財産的情報及びこれを記載した指図書を提供した。
(三) 本件製造委託契約は、被告インターナショナルが自己又は第三者の利益のために旧ブリストル社の財産的情報を使用することを禁止しているものであるところ、同被告は、右契約期間中であるにもかかわらず、自己が製造承認を得て製造販売する目的で、旧ブリストル社の財産的情報たる原告商品製造に関する技術上の秘密を使用して、内容成分が原告商品とほとんど同一であり、商品表示も原告商品に著しく類似している被告商品の製造販売を開始している。すなわち、被告インターナショナルは、被告商品の製造承認を厚生省から昭和六一年四月一八日に取得しているが、一般に、医薬部外品の製造承認には、申請から少なくとも六カ月を要することに鑑みると、右製造承認にかる申請は遅くとも昭和六〇年一〇月頃までになされたものであり、また、製造承認を申請するためには、申請以前に申請対象商品の開発・製作を完了したうえ、その処方や分析結果などの資料を厚生省に提出しなければならないから、被告インターナショナルは、右申請より以前から被告製品を製造していたものである。したがって、同被告が右契約の終了する前記昭和六〇年一二月三一日の相当以前から被告製品を製造していたものであることは明らかである。
(四) 本件製造委託契約は、昭和六〇年一二月三一日限りで終了したが、契約の終了後は、同契約で定められた原状回復義務に基づいて(第一六条第二文)、指図書等を返還するだけでなく、財産的情報の使用を止める必要があるにもかかわらず、同被告は、右被告商品の製造販売を右契約終了後も継続して行っている。
(五) 以上のとおり、被告インターナショナルは、本件製造委託契約の終了以前から、旧ブリストル社から提供された処方や製造手順を記載した指図書を使用して、原告製品の類似品である被告商品を製造し、右契約契約終了後も継続して被告商品を製造しているのである。このように、一旦情報の使用を許諾された者が権限を逸脱し、又は権限を喪失したのにその地位を利用して情報を不正利用する行為に対しては、不正利用そのものの差止めを認めなければ、情報所有者の十分な保護にならず、また、不正利用行為のみの禁止であれば、相手方の営業活動を不当に阻害することにはならない。したがって、原告は、被告インターナショナルに対し、右契約の(終了に伴う)効果として、内容液については主位的に、商品表示については予備的にそれぞれ差止めを求める。また、右債務不履行を損害賠償請求の予備的請求原因として主張する。
4 被告ギンビ及び同シーランドに対する本件販売契約に基づく差止及び損害賠償請求
(一) 旧ブリストル社と被告ギンビは、昭和五六年一〇月一日、「シーブリーズ商品」の販売に関して、「被告ギンビは旧ブリストル社が日本国内においてシーブリーズ商品の専属的かつ排他的販売権を有することを認める」(第一条。なお第三条)ことを内容とする契約(以下「本件販売契約」という。)を締結し、昭和五八年三月二二日右契約を更新したが、本件販売契約は昭和六一年六月二〇日限り終了した。
(二) 被告ギンビは、昭和六一年六月一日から被告商品を販売している。
(三) 本件販売契約の第一条は、それ以前に被告ギンビが原告商品の総販売店であったことから、同被告独自の販売権を一切否定した意味を有するものであって、この条項により、同被告は、旧ブリストル社の許諾なしにはシーブリーズ商品と同一又は類似の商品を製造販売することはできないという不作為義務を負っている。そして、右条項の効力は、同被告による「只乗り」を防ぐために、本件販売契約終了後も引き続き存続するというべきである。
被告シーランドは、被告ギンビの実質上の一〇〇パーセント子会社であり、本店所在地、取締役全員が共通であり、事業目的も被告ギンビのそれに含まれているから、被告ギンビと実質的には同一の組織体である。したがって、被告シーランドは、原告に対して、被告ギンビと異なる法人格であると主張することは許されず、被告ギンビと同内容の義務を負っているものである。
(四) 被告商品は、被告インターナショナルが原告商品の処方や製法が財産的情報であることを認識しつつ、これを不正利用して製造したものであり、原告商品と殆ど同一内容成分である。またその商品表示も著しく類似している。したがって、被告商品は原告商品と類似する商品に該当する。
(五) よって、右被告両名の被告商品の販売行為は、右契約期間中はもちろん、契約終了後も、右被告両名が負っている不作為義務に違反するものであるから、被告ギンビ及び同シーランドに対し、内容液については主位的に、商品表示については予備的にそれぞれ差止めを求める。また、右債務不履行を損害賠償請求の予備的請求原因として主張する。
5 被告ギンビ、同シーランド及び同インターナショナルに対する不法行為にに基づく損害賠償請求
(一) 被告ギンビ、同シーランド及び同インターナショナルは、原告商品の有する販売力に寄生し、原告商品の顕在的潜在的需要者を対象として、原告商品に代わるものとして被告商品を製造販売しているものであり、その結果原告商品の顧客が奪われたのであるから、原告商品の販売力への只乗りであり、不法行為が成立する。
(二) 被告ギンビは、(1)被告商品の商品案内でも、被告ギンビの原告商品の販売歴を強調し、(2)被告商品を原告商品と比較して、「お徳用」「二〇%増量」等として紹介し、(3)被告商品の容器について原告商品の容器と類似するデザインのものを用い、また内容においても、香りにおいても全く同一のものを被告商品とし、(4)原告商品の商品名である「シーブリーズ」から「ズ」を除いただけの「シーブリー」を商標登録申請する等、原告商品の代替品として被告商品を計画し、その販売先として、従来の原告商品の需要者を予定しているものであって、原告商品の販売力への只乗りであり、違法な行為である。
自由競争社会の下では、同種商品が市場において強豪して製造販売されることは当然の前提であるが、そこでは個々の商品は適切に差別化されるべきであり、他人の商品と差別せず、しかも差別のないことを宣伝文句にして販売するような行為は、自由競争の名目をもってしても許容されるものではなく、違法であるといわざるを得ない。
(三) 被告シーランドは、被告ギンビの子会社であり、役員も共通であるから、その認識は被告ギンビと同一であり、また被告インターナショナルは、被告ギンビが原告商品の販売店であることを認識したうえで、内容、香りにおいて全く同一の被告商品の製造を受託しているから、いずれも原告商品の販売力に只乗りすることを意図していたものである。
(四) 原告は、右被告三名による違法な只乗り行為により、原告商品の顧客を奪われ、後記のような損害を被った。
(五) よって、原告は、右不法行為を右被告三名に対する損害賠償請求の予備的請求原因として主張する。
6 原告の被った損害
(一) 被告商品は、原告商品の代替品として販売され、原告等と被告インターナショナル、同ギンビ及び同シーランドとは、原告商品及び被告商品の販売につき、市場において完全な競争関係にあるから、商標法三八条一項又は特許法一〇二条一項の規定が類推適用され、原告等は、少なくとも、被告らが、昭和六一年六月から平成三年五月末日までに、被告商品の製造販売によって得た利益相当額の損害を被っているというべきである。
(二) 被告ギンビ又は同シーランドの得た利益
被告ギンビ又は同シーランドの昭和六一年六月から同年八月までの三か月間の販売店に対する売上高は、金一億四〇二〇万円である。売上高に対する粗利益率は、約三五パーセントであるから、約金四九〇七万円である。そして、純利益率は粗利益の約一〇パーセント、すなわち売上高の約三・五パーセントであるから、右三か月間の純利益は、金四九〇万七〇〇〇円である。
したがって、昭和六一年六月から昭和六三年五月末日までの利益は右三ヵ月の利益を八倍した金三九二五万六〇〇〇円であり、昭和六三年六月から平成三年五月末日までの利益は右三ヵ月の利益を一二倍した五八八八万四〇〇〇円である。
(三) 被告インターナショナルの得た利益
被告インターナショナルの昭和六一年六月から同年八月までの売上高は、被告ギンビ又は同シーランドの売上原価にあたる前記売上高の約六五パーセントであるから、約金九一一三万円であり、純利益率はその約五パーセントであるから、金四五五万六五〇〇円である。
したがって、昭和六一年六月から昭和六三年五月末日までの利益は右三ヵ月の利益を八倍した金三六四五万二〇〇〇円であり、昭和六三年六月から平成三年五月末日までの利益は右三ヵ月の利益を一二倍した五四六七万八〇〇〇円である。
(四) 右のとおりであるから、原告の被った損害額は、請求の趣旨4、5記載のとおりの金額となる。
7 被告シーブリーズに対する商号使用等の差止請求
次の(一)の請求と(二)の請求とを選択的に主張する。
(一) 不正競争防止法一条一項二号に基づく請求
前記2(二)及び(三)のとおり、「シーブリーズ」の名称は、原告の営業表示として周知である。
被告シーブリーズの商号「株式会社日本シーブリーズ」は、原告の周知営業表示である「シーブリーズ」に、「株式会社」と「日本」とを付加したにすぎないから、原告の右営業表示に類似することは明らかである。
被告シーブリーズは、化粧品及び医薬部外品等の輸出入及び販売等を目的とする会社であり、右商号を自己の営業表示としているから、通常の取引者ないし需要者において、被告の営業及び商品が原告のそれであるかのように誤認混同し、その結果、原告の営業上の信用及び利益が害されるおそれがある。
(二) 契約に基づく商号使用の差止請求
(1) 米国ペンシルバニア州法人シーブリーズ・ラボラトリーズ・インコーポレイテッド(以下「米国シーブリーズ社」という。)、カリフォルニア州法人ハトゥコ・インターナショナル(以下「ハトゥコ社」という。)及び被告シーブリーズは、昭和四四年五月二三日、シーブリーズ商品の日本への輸入及び販売に関して契約を締結し、その契約の中で、米国シーブリーズ社は、被告シーブリーズに対し、「シーブリーズ」の名称の使用を許諾したことがあるが、その契約では契約終了後は右名称使用を禁止するとされていたものであり、右契約は昭和五一年に終了した。
(2) 米国シーブリーズ社及び被告ギンビは、昭和五一年七月一日、日本における原告商品の独占販売を許諾する旨の商標ライセンス契約を締結し、その契約では、直接又は被告ギンビ若しくはその株主と直接間接に関係している第三者をして、契約期間中か否かを問わず、商号中に「シーブリーズ」の名称を使用しないことが約定されていた。しかるに、被告ギンビは、自己の子会社となった被告シーブリーズをして「シーブリーズ」の名称を続用させていた。このような名称使用関係について、仮に米国シーブリーズ社が事実上これを許諾していたとしても、その許諾には商標ライセンス契約が終了することを解除条件とする黙示の付款が付せられていたと解するべきであり、昭和五六年六月三〇日に同契約が終了したことによって、右解除条件は成就した。
(3) 旧ブリストル社及び被告シーブリーズは、昭和五六年一〇月一日、米国法人クレイロール・インコーポレイテッド(以下「クレイロール社」という)の製造するシーブリーズの輸入及び販売に関する契約を締結したが、この契約には、シーブリーズの商標が原告に帰属する旨明示されており、「シーブリーズ」の名称使用については明示の約定はなかったものの、旧ブリストル社は右委託契約が終了することを条件とする黙示の付款を付してこれを許諾したと解すべきところ、昭和五七年一二月末日をもって右委託契約は終了したから、右解除条件も成就した。
(4) したがって、被告シーブリーズが契約に基づく「シーブリーズ」を含む商号を使用することのできる権原は消滅したので、原告は同被告に対し、請求の趣旨1のとおり、その商号の使用差止等を求める。
二 請求原因に対する被告らの認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 請求原因2(一)事実は認める。
同(二)は争う。
同(三)の(1)及び(2)の事実は不知。同(3)は争う。
同(四)の(1)の事実は認めるが、(2)は争う。
同(五)は争う。
同(六)の事実は否認する。
3 請求原因3(一)の事実は認める。
同(二)の事実は否認する。
同(三)のうち、被告インターナショナルが昭和六一年四月一八日に被告商品の製造承認を厚生省から取得したこと及び右製造承認にかかる申請を原告との委託契約期間中に行ったことは認めるが、その余は否認する。
同(四)のうち、旧ブリストル社と被告インターナショナルとの間の本件製造委託契約が昭和六〇年一二月三一日限り終了したこと、同被告が右契約終了後被告商品を製造販売していることは認めるが、その余は否認する。
同(五)は争う。
4 請求原因4(一)、(二)の事実は認める。
同(三)は争う。
同(四)は否認する。
同(五)は争う。
5 請求原因5(一)ないし(五)はいずれも争う。
6 請求原因6(一)ないし(四)は否認する。
7 請求原因7(一)のうち、被告シーブリーズの商号が「株式会社日本シーブリーズ」であり、この商号を営業表示としていること、化粧品及び医薬部外品の輸出入及び販売等を目的とする会社であることは認め、その余の事実は否認する。
同(二)のうち、米国シーブリーズ社、ハトゥコ社及び被告シーブリーズが昭和四四年五月二三日シーブリーズ商品の日本への輸入及び販売に関して契約を締結したこと、米国シーブリーズ社及び被告ギンビが昭和五一年七月一日商標ライセンス契約を締結したこと、旧ブリストル社及び被告シーブリーズが昭和五六年一〇月一日クレイロール社の製造するシーブリーズの輸入及び販売に関する契約を締結したこと、旧ブリストル社と被告シーブリーズとの右契約は昭和五七年一二月末日限り終了したことは認め、その余は争う。
三 被告らの主張
1 不正競争防止法一条一項一号に関する被告らの主張
(一) 原告容器の商品表示性について
原告商品と同種薬用ローションの容器の殆どが上部にプッシュアップ式のキャップを有する円筒型の白色のポリ容器を用いており、そのサイズも一見して差異を感じさせるほどの違いはない。このことから明らかなように、原告商品の容器自体の形状、色彩、寸法、材質のいずれをとっても他の競業者のそれと出所を識別できるだけの特徴を有しているものとは認められない。したがって、原告商品の容器自体の形状、寸法、色彩、材質によっては自他商品の識別力がない。
(二) 原告容器の周知性について
原告商品の容器は、短い期間に何回も変更され、また、多種平行して使用されているから、これが原告の商品であることを示すものとして、需要者に広く認識されていることは到底あり得ない。
(三) 原告容器と被告容器との類否について
原告が自認する相違点の他に、i.白抜きの図形が、原告の容器では帆であるのに対して、被告容器ではそれが星であること、j.中層の文字が、原告の容器では「BREEZE」であるのに対して、被告容器のそれは「LAND」であること、k.原告の容器の「SEA」「BREEZE」は青色であるのに対して、ロ号、ハ号容器の「SEA」「LAND」は銀色であること、1.下層の文字が、原告の容器では「ANTISEPTIC」であるのに対し、ハ号容器のそれは「MEDICATED LOTION」であることが相違し、これらの相違点を併せ考察するならば、原告が指摘する共通点にもかかわらず、両表示を別個のものと観念させるに十分であり、両表示が類似しないことは明らかである。
(四) 原告容器と被告容器との誤認混同について
被告商品の販売先は、専ら美容院、理容室、又はそれらへの卸売業者であり、直接一般消費者へ販売されることが予定されている小売り店には販売されていないから、取引者は薬品、化粧品を専門的に取り扱っている業者や薬用ローションに関して専門的知識を有している美容師、理容師に限られ、これらの者の専門的知識をもってすれば、原告商品と被告商品との区別は容易にすることができるし、また、被告商品が一般消費者の手に渡るとしても、一旦美容院などに納品されてから、美容師、理容師のアドバイスに基づいて購入するのであるから、被告商品と原告商品が誤認混同されるおそれはない。
また、原告商品も被告商品も、ともにその販売経路の全ての段階において、包装箱に入れられた状態で店頭に展示され、美容室などに置かれているのであって、取引者・一般消費者は、わざわざ、包装箱を開け中から容器を取り出すようなことはせず、すなわち容器の形状、大きさ、文字の色調、書体、用いられている文言、中央に標章を置くレイアウト、全体のレイアウトには委細構わず、箱だけ見て購入するのであるから、このような取引の実情からすると、原告主張のような誤認混同が生じるおそれはない。
2 契約に基づく不作為義務に関する被告インターナショナルの主張
(一) 原告は、財産的情報の内容、そのうちの被告に開示された内容及び被告により使用されている内容を何ら明らかにしていな炉。原告は、被告らが原告所有の財産的情報を不正に使用していると主張しているのであるから、その財産的情報を開示することは何ら問題はないはずであるにもかかわらず、これを拒むのは、その主張にかかる財産的情報がないことを示している。
(二) 原告が主張する「財産的情報」なるものは存在しない。
すなわち、旧ブリストル社は、米国ブリストル・マイヤーズの子会社であるが、日本の会社であり、旧ブリストル社自身は原告商品を製造するノウハウなどは何も有していなかったのである。そもそも、製造ノウハウは、現実に使用する設備の種類や状態によって異なるから、被告インターナショナルが独自の技術ノウハウに基づいて新規に購入設置したシーブリーズ製造設備につき、旧ブリストル社側が製造ノウハウを有していたことなどあり得ない。
(三) また被告インターナショナルは、原告主張の「財産的情報」を開示されたことはない。原告商品は、アメリカから調合剤の形で輸入された、各種香料に何らかの成分を混合したものと考えられる液体に被告インターナショナルが安息香酸、エタノール等を定量追加して充填することにより製造していたのであって、原告商品に強いて財産的情報というべきものがあるとすれば、それは、右オイル・ブレンドの調合成分比及び方法であるかもしれないが、これは原液の形で輸入されていた以上、何らの情報開示も必要ではなく、また、現になされなかったから、被告インターナショナル側は、これを知らない。
(四) 仮に、原告商品の「処方」や「成分の種類、成分量」あるいは「成分組成及び成分比」が原告の主張する「財産的情報」に当たるとしても、これらは公然・公知の情報であって、秘密性は存在しない。
すなわち、原告のいう「成分組成」とは、別紙成分表を指すものであると考えられるが、それは、本件シーブリーズ商品の容器に「エタノール・カンフル・ハッカ油・チョウジ油・安息香酸・オイゲノール・ユーカリ油」との表示がなされていることから、公然・公知の事実であり、何ら秘密性のあるものではない。また、「成分比」についても、エタノールは四三パーセントと容器に表示され、カンフル・ハッカ油・チョウジ油・安息香酸・オイゲノール・ユーカリ油等は、いずれもありふれた成分であるため、この業界において同種の製品を製造している業者であれば、誰でもおおよその成分比を推測しうるものであって秘密性は存在しない。
(五) 原告と被告インターナショナルとの契約の第一六条第二文は、その文言からも明らかなとおり、同条記載の一定の解除事由に該当した場合に限って適用されるものであり、契約終了全般に適用されるものではない。
(六) 原告商品と被告商品との内容液の類似性
被告商品は、原告商品に比べ刺激が弱くマイルドな仕上がりになっており、類似の商品ではない。また、被告インターナショナルは、これら商品の清涼感を出す上で重要な要素である香料の割合には、どちらの商品にも関与していない。
3 契約に基づく不作為義務に関する被告ギンビ及び同シーランドの主張
(一) 旧ブリストル社と被告との契約は、販売代理店契約という単純な継続的売買契約であり、被告ギンビが、旧ブリストル社の「営業の一部を分担」するという内容のものではないから、原告が主張するような競業避止義務などは生じない。
被告シーランドは、被告ギンビと同一の法人格ではないから、同被告に競業避止義務は生じない。
(二) 原告の主張する技術情報に「秘密性」は存在しない。
原告主張の「成分組成」は別紙成分表を指すものであると考えられるが、それは、原告商品の容器に「エタノール・カンフル・ハッカ油・チョウジ油・安息香酸・オイゲノール・ユーカリ油」と表示されていることから、公知、公然であることは明らかであり、なんら秘密性のあるものではない。また、成分比についても、エタノールは四三パーセントと容器に表示され、その他、カンフル一パーセント未満、安息香酸は〇・五パーセント未満、ハッカ油・チョウジ油・安息香酸・オイゲノール・ユーカリ油は、いずれも、微量とされるだけで、これらは、ガスクロマトグラフィーによる定性分析によって容易に分析しうるものであり、なんら秘密性のある技術情報とはいえない。
また、旧ブリストル社から被告になんら秘密の技術情報は開示されていない。原告商品には、オイル・ブレンドと称するものが配合されており、これは香料を主体としたものらしい。そうとすれば、香料は最も商品の印象を左右する重要な成分であるのに、この内容は被告ギンビは勿論、被告インターナショナルにも開示されていない。
(三) 被告ギンビは、被告商品の販売に際して、内容液について、原告商品と比べて、「ソフト、マイルド」になるように製造を依頼している。当初から原告商品との差別化を図りながら、現代の消費者のマイルド指向という商品選択傾向に合わせて、商品開発を進めていったのである。このように、被告商品は、原告商品とは内容液が異なっているから、類似商品ではない。
四 被告らの主張に対する原告の反論
1 不正競争防止法一条一項一号に関する被告らの主張に対する反論
(一) 原告容器と被告容器との類否についての被告ギンビらの観察方法は、局所的、対比的観察に終始しているものであって、商品表示の類似性判断において取られるべき全体的観察、離隔的観察を意図的に捨象しているものであって、妥当でない。
(二) 原告は、直接一般消費者へ販売する小売点に向けて原告商品を販売するほか、美容室、理容室あるいはそれらへの卸売業者に対しても原告商品を販売している。後者の販売においては、薬品、化粧品等を専門に扱っている業者、美容室、理容師が取引者として関与している。したがって、原告商品の販売経路は、被告ら商品の販売経路を包含し、重なり合う限度で競合している。現に被告らのいう専門家においてさえ誤認混同が生じたのであるから、ましてや、一般消費者において混同が生じていることには疑いがない。
確かに、需要者が購入時に手にするのは包装箱に入った商品であるが、原告も被告らも商品の広告には容器を表示するのが通常であるし、場合によっては、サンプル品を中から取り出し実際に使って見せて商品を宣伝しているから、需要者は、主として容器を認識しているのである。また、原告商品と被告ら商品の包装箱の正面の表示は、前記のような容器の正面の表示をほぼそのまま拡大したものであり、両者は酷似しているから、誤認混同を生じることには変わりない。
2 契約に基づく不作為義務に関する被告インターナショナルの主張に対する原告の反論
被告らは、原告の商品表示中に成分の表示がなされているから、処方は公知であり、またその成分比も容易に分析しうるので秘密性がないと主張しているが、化粧メーカーにおいて、その商品の成分と組成比が分析可能であるからといって、これを秘密でないとする企業などありえない。今日の化学技術をもってすれば、あらゆる商品が分析可能である。分析できるということは、公知であること、秘密性がないことも意味しない。
五 抗弁
1 被告らの権利濫用の抗弁
(一) 被告ギンビは、原告商品を国内で販売するに当たり、被告ギンビの約一五〇の代理店とその傘下の美容室約一万五〇〇〇軒の店舗網を活用し、また契約金システムの導入、加盟代理店・美容室への限定販売、原告商品の品質・使用方法の指導教育、理美容業界への大々的な広告宣伝活動等の独創的な販売方法を採ることによって、米国シーブリーズ社が予想する以上の売上を確保し、その後の売上も飛躍的に増大させたのである。原告商品が我が国のトイレタリー業界において一定の地位を占めるに至ったのは、被告ギンビの長年にわたる努力によるものであり、原告主張にかかる周知性の基礎は被告ギンビが作り上げたのである。
(二) これに対して、旧ブリストル社は、このように既に理美容業界で「ギンビのシーブリーズ」「シーブリーズのギンビ」という定評ができ上がってから、原告商品の取扱いを開始したのであり、しかも取扱いのきっかけもブリストルマイヤーズグループに属するクレイロール社が米国シーブリーズ社を「買収」することによってその販売権を取得したことにあるのであって、被告ギンビの販売権に制約を加える根拠は希薄であったといわざるを得ない。
そうであるにもかかわらず、旧ブリストル社は、理美容業界以外の一般消費者向けに原告商品の販売を開始するとともに、被告ギンビの開拓した取引先に対し直接販売するなどの契約違反行為を犯したり、スーパー、ディスカウントストア、化粧品店等へ破格の安値で卸して被告ギンビの販売に壊滅的な打撃を与えたりするなど、一連の背信的な行為を行って、被告ギンビを原告商品の販売から余儀なく撤退させ、被告ギンビらの長年にわたる営業活動の成果に只乗りしたのである。
(三) 旧ブリストル社のこのような一連の背信的な行為は、信義則に反し、商業道徳に反するものであるから、同社の一切の権利義務を承継した原告の本訴請求は、いずれも権利の濫用として、棄却されるべきである。
2 請求原因7(一)に対する被告シーブリーズの抗弁(商号の善意使用)
被告シーブリーズは、昭和四二年ころに、たまたまアメリカでシーブリーズ商品を入手した訴外植村秀によって、当時の日本では未だシーブリーズ商品は全く売られておらず、シーブリーズという表示が全く無名の時期であった昭和四四年二月四日に、同商品を日本に輸入して販売する目的で設立されたものであり、その設立時に「株式会社日本シーブリーズ」という商号が採用され、その後右商号を継続使用して今日に至っているものである。
右のとおり、被告シーブリーズは、「株式会社日本シーブリーズ」との商号を「本法施行ノ地域内ニ於テ広ク認識セラルル以前ヨリ」「善意ニ使用スル者」であるから、不正競争防止法二条一項四号により、同法一条一項一号の適用はない。
六 抗弁に対する認否及び原告の主張
1 抗弁1は争う。
原告商品の売上が飛躍的に増大したのは、旧ブリストル社が原告商品の販売を開始してからであり、旧ブリストル社の販売努力によるものであり、原告商品の周知性は旧ブリストル社が獲得したものである。
かつて被告ギンビが有していた原告商品の販売権は、同被告が原始的にも承継的にも取得したものではなく、契約によって許諾されたものにすぎないから、その許諾が約定に従って解除された以上、販売権が消滅するのは当然である。また旧ブリストル社は、被告ギンビの開拓した取引先に対し直接販売したことはない。旧ブリストル社が販売したのは、同社自身が開拓した取引先である。旧ブリストル社と被告ギンビとの間で二回にわたり締結された販売委託契約のいずれにおいても、被告ギンビは旧ブリストル社自らが開発した販売先に販売することに異議を唱えないと規定されていたのであるから、被告ギンビの主張は失当である。
旧ブリストル社は、理美容業界以外の一般消費者向けに原告商品の販売を開始したが、同社自身は一切ダンピングしていない。同社は原告商品を製造販売していたのであるから、ダンピングの発生は被告ギンビ以上に苦痛であり、あちこちからクレームを受けることにもなるのである。また旧ブリストル社は、被告ギンビに対してだけ破格の安値で卸して優遇していたのであるから、被告ギンビから非難されるいわれはない。
右のとおり、旧ブリストル社に何らの背信的行為はなく、かえって販売委託契約期間中であるにもかかわらず、秘密裡に類似品の製造販売を企て、これを実行した被告らの行為こそ、まさに背信的行為に他ならない。
2 抗弁2のうち、被告シーブリーズが昭和四四年二月四日にシープリーズ商品を日本に輸入して販売する目的で設立されたこと、その設立時に「株式会社日本シーブリーズ」との商号が採用され、今日に至っていることは認め、その余は争う。
不正競争防止法二条一項四号にいう「善意」とは、相手方の表示使用とは「無関係に」という意味であり、本件では、被告シーブリーズは、米国シーブリーズ社が同じ「シーブリーズ」なる名称の商品を製造販売していることを知りつつ、同商品を日本において輸入販売することを目的として設立され、商号中に「シーブリーズ」を使用したのであって、相手方たる米国シーブリーズ社と無関係に使用が開始されたものではないから、本件には適用がないというべきである。
そして、営業表示の使用を開始した者が、その後に相手方との間で当該表示の使用に関して合意をしたときには、当該表示の使用関係は専らその合意に従って規律され、右条項の適用はないと考えられるところ、被告シーブリーズは、昭和四四年、米国シーブリーズ社と、被告シーブリーズが契約終了後は「シーブリーズ」との「名称」「トレードネーム」を使用してはならないことを内容とする契約を締結したのであり、商号が「名称」「トレードネーム」に含まれることは明らかであるから、「シーブリーズ」の部分を使用してはならないのである。
第三 証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。
二 不正競争防止法一条一項一号に基づく請求について
1 原告商品について
(一) 請求原因2(一)の事実は、当事者間に争いがなく、この争いのない事実と甲第二二、第四七、第四八号証、第四九号証の一、二、乙第四号証の一、二、第一一号証、証人横田重紀の証言、被告ギンビ代表者尋問の結果、検甲第三ないし第五号証並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 原告商品については、昭和四四年から昭和五六年九月末日までの間、被告ギンビが総販売店として理美容業界向けに販売してきたが、昭和五六年一〇月から旧ブリストル社が発売元となって、理美容業界向けのみならず、一般小売市場にも販売するようになり、原告商品の容器については、旧ブリストル社が販売を開始した右昭和五六年一〇月から昭和五七年九月頃まで原告第一容器を、同年一〇月頃から昭和五九年一〇月頃まで原告第二容器を、同年一一月頃から現在に至るまで原告第三容器をそれぞれ使用している。
(2) 原告第一ないし第三容器は、次のような形状及び記載である。
原告第一容器は、<1>キャップを上部に有する白色の円筒形の容器であって、<2>余白の多い構成で、<3>文字はすべて横書きであり、<4>その文字の色彩は基調として青色が用いられ、その正面部には、<5>最上部に「FOR PROFESSIONAL & FAMILY USE」、<6>そのすぐ下に「皮フの殺菌消毒・薬用ローション」の文字がそれぞれ青色で記載され、<7>その下のやや間隔を置いた容器中央部には、縦長方形の青色地に白抜きの帆のマークが記載され、<8>この長方形の左横及び下部に商品名の「SEA BREEZE」の文字が淡緑色で太字で記載され、<9>その下に「ANTSEPTIC FOR」の文字と<10>「SKIN AND SCALP」の文字が青色で二段に記載され、<11>その下に成分が淡緑色の英字で記載され、<12>更にやや間を置いて容量が英字で表示されている。
原告第二容器は、<6>上部の「皮フの殺菌消毒・薬用ローション」が「皮フの清浄・薬用ローション」に変わっている点及び<12>最下部に「CLAIROL.Bristol-Myers K.K.」との表示が加わった点が原告第一容器と異なっている。
原告第三容器は、原告第二容器と、<6>上部の「皮フの清浄・薬用ローション」が長方形の枠で囲まれた「全身薬用ローション」に、<8>商品名の「SEA BREEZE」の文字の色が淡緑色から青色に、<9>「ANTISEPTIC FOR」と<10>「SKIN AND SCALP」の文字が、<9>「ANTISEPTIC」と<10>「SKIN AND SCALP」に分けられ、「ANTSEPTIC」がやや太字で「SEA BREEZE」の文字のすぐ下に記載され、<10>「SKIN AND SCALP」がこれとはやや間隔を置いて記載されている点が異なっている。
(3) 旧ブリストル社は、原告商品の発売元となった右昭和五六年一〇月から全国に存在する理美容院や小売店のポスター、パンフレット等を、昭和五七年五月からは全国的に販売されている雑誌を用いて、原告商品を宣伝広告し、更には昭和五八年六月から、全国ネットのテレビ放送でのコマーシャルを行うなど大々的な宣伝広告を行い、右のポスター・雑誌やテレビにおける宣伝は全てカラーで行い、その広告中には、原告商品の容器そのもの、「SEA BREEZE」の標章、帆のマーク及びこれらを合わせた標章等を使用した。
(4) 原告商品の売上状況は、昭和五六年には原告第一容器を用いた原告商品の販売数量が八六万四一二八本、その売上高が四億五二七二万六〇〇〇円であったのが、昭和六〇年には原告第三容器を用いた原告商品の販売数量が三四九万六二七八本、その販売高が一八億五二〇四万二〇〇〇円に達した。
(5) 昭和六〇年夏に行われた調査によると、全身ローション五銘柄のうちの知名率は、「ジョンソンベビーローション」や「ビオレUフレッシュローション」に次ぐものであって、男女とも半数強が認知しており、特に男性の間では、「ジョンソンベビーローション」や「ビオレUフレッシュローション」を超え認知されている。
(6) 原告第一ないし第三容器の<1>キャップを上部に有する白色の円筒形の容器であって、<2>余白の多い構成で、<3>文字はすべて横書きで、<4>その文字の色彩は基調として青色が用いられ、容器正面部の表示が上部、中央部、下部に分けられ、容器上部には、<5>「FOR PROFESSIONAL & FAMILY USE」の文字と<6>「薬用ローション」を含む表示が記載され、その下のやや間隔を置いた容器中央部には、<7>縦長方形の青色地に白抜きの帆のマーク、<8>この長方形の図形の左横及び下部にわたり太字の「SEA BREEZE」、<9>その下に「ANTISEPTIC」と<10>「SKIN AND SCALP」等の文字がそれぞれ記載され、容器下部には、<11>英字による成分の表示、<12>英字による容量及び会社名の表示が記載されているという共通の形状・記載は、他の同種製品には見られないものであり、原告商品であることを示す特徴である。
(二) これらの事実によると、右(6)記載の特徴は、昭和六〇年末頃には、原告商品であることを示す表示として広く認識されたものであるということができる。
2 被告商品について
請求原因2(四)(1)の事実は、当事者間に争いがなく、この争いのない事実と甲第四八号証、乙第一五、第一六号証、検甲第一、第二、第六ないし第八、第一二号証並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 被告商品については、被告インターナショナルが製造し、被告ギンビ及び同シーランドが昭和六一年六月一日から販売しているものであるが、その容器は、右販売開始の時点から同年一一月頃まではイ号容器を、その後昭和六二年五月末頃でまではロ号容器を、その後現在に至るまでハ号容器を使用している。
(二) イ号ないしハ号容器及びそれらの包装箱は、次のような形状及び記載である。
(1) イ号、ロ号及びハ号容器は、純白色の円筒型容器であって、その縦横比は約三対一であり、これら容器の包装箱は、その縦横比が約三・五対一であって、容器正面部の表示と包装箱正面部の表示は同一である。
(2) イ号容器は、<1>キャップを上部に有する白色の円筒形の容器であって、<2>余白の多い構成で、<3>文字はすべて横書きで、<4>その文字の色彩は基調として青色が用いられ、その正面部には、<5>最上部に「FOR PROFESSIONAL & FAMILY USE」が記載され、<6>そのすぐ下に長方形の枠で囲まれた「皮フの清浄・薬用ローション」の文字が記載され、<7>その下のやや間隔を置いた容器中央部には、縦長方形の青色地に白抜きで五放射の星の内の右側の四放射部分の図形が、右長方形の左外側の白地に青色で星の左側の一放射部分に相当する三角形の図形がそれぞれ記載され、<8>この長方形図形の左横及び下部に商品名である「SEA LAND」の文字が太字で記載され、<9>そのすぐ下に「ANTISEPTIC」の表示が、<10>やや間隔を置いて「SKIN AND SCALP」の表示が各記載され、<11>その下に成分が英文で記載され、<12>更にやや間を置いて容量及び会社名が二段で英語で表示されている。
(3) ロ号容器は、正面部において、<8>容器中央部に記載された「SEA LAND」の文字の色が銀色である点及び、<11>容器下部に成分の記載がなく、白色地のままである点がイ号容器と異なっている。
(4) ハ号容器は、右(2)記載の二点の違いの他、<6>容器上部の長方形の枠内の「皮フの清浄・薬用ローション」の記載が「皮フの清浄・全身薬用ローション」となり、「全身」の二字が加わった点、<9>容器中央部の「SEA LAND」の下の「ANTISEPTIC」の文字が「MEDICATED LOTION」の文字になった点がイ号容器と異なっている。
3 経緯及び取引の実情等について
甲第一四、第一五、第二五ないし第三〇、第四四、第四七、第四八号証、第六〇号証の一ないし一五、第六八号証の一ないし四、乙第一一号証及び証人横田重紀の証言及び被告ギンビ代表者尋問の結果によれば、次の事実が認められる。
(1) 被告ギンビは、昭和四四年五月から昭和五六年九月末日までの間、原告商品の総販売店として、原告商品を我が国の理美容業界において独占的に販売し、その市場開発の実績を上げてきたが、原告商品の原液の製造元である米国シーブリーズ社がブリストル・マイヤーズ・グループに買収されたことから、同グループの一員である旧ブリストル社が原告商品を直接販売することとなり、被告ギンビは、昭和五六年一〇月一日からは単なる販売代理店として理美容業界における販売のみを行うこととなった。
(2) ところが、旧ブリストル社が昭和五九年四月頃から一般消費者に対し原告商品を低価格で販売するようになったことから、理美容院での売れ行きが不振となり、被告ギンビは、販売代理店や理美容院からクレームを受けるようになった。そのため、同被告は、昭和六〇年夏頃から、市場の流通機構を正しいものにする、乱売、横流れ等市場の混乱をきたさないようにするとして、薬用ローションを理美容業界向けに安定した価格で販売しようと計画し、被告インターナショナルに対し新しい製品の製作依頼をするなどして被告商品の開発を始めた。
(3) 被告インターナショナルは昭和六一年四月頃から被告商品の製造を開始し、被告ギンビは同年六月一日から被告商品の販売を開始した。そして同月三日には被告商品の販売のために被告シーランドが設立された。旧ブリストル社は、被告ギンビが被告商品の製造販売を始めたことから、同被告との間に昭和五六年一〇月一日締結し、昭和五八年三月二二日更新した原告商品についての本件販売契約を、昭和六一年六月二〇日限り解消した。
(4) 被告商品は、販売された当初の頃、「美容室専用のシーブリーズが名前を変えて新登場!」、「シーブリーズの生れ変り」、「あのシーブリーズが新しくなって登場!」などと宣伝され、また被告商品は原告商品と中身は同じであり、またそのメーカーも同じであるなどとも宣伝されて、販売されていた。
(5) 原告は理美容業界及び一般消費者に対し販売しているのに対し、被告は理美容業界に対してだけ販売しているが、現在理美容業界においては、全身薬用ローションとして販売競争に生き残っているのは、原告商品と被告商品のみであり、販売代理店により原告商品と被告商品との売り込みが競合してなされることもあり、また原告商品及び被告商品は、このような理美容院を通じて一般消費者に販売されている。
4 そこで、原告の周知の商品表示と被告商品の各容器及び包装箱とを対比し、これらの類似性について検討する。
(一) イ号容器は、<1>キャップを上部に有する純白色の円筒形の容器である点、<2>余白の多い構成である点、<3>文字はすべて横書きである点、<4>文字の色彩の基調として青色が用いられている点、容器上部に<5>「FOR PROFESSIONAL & FAMILY USE」の表示と<6>「薬用ローション」の文字を含む表示が記載されている点、容器中央部に<7>縦長方形の青色地に白抜きの図形、<8>太字の英字の商品名の表示、<9>「ANTISEPTIC」の表示、<10>「SKIN AND SCALP」の表示が各記載されている点、容器下部に<11>英字による成分の表示、<12>英字による容量及び会社名の表示が記載されている点において、原告商品表示と共通しているが、容器中央部の縦長方形の白抜きの図形が原告商品表示においては帆のマークであるのに対し、イ号容器では星のマークである点、商品名が原告商品表示においては「SEA BREEZE」であるのに対し、イ号容器では「SEA LAND」である点において異なっている。
ロ号容器は、右イ号容器における違いの他に、<8>商品名の表示が、原告商品表示においては青色又は淡緑色であるのに対し、ロ号容器においては銀色である点、<11>ロ号容器においては下部に成分の記載がなく、白色地のままである点が原告商品表示と異なっているが、その余の点においては原告商品表示と共通している。
ハ号容器は、右イ号及びロ号容器における違いの他に、<9>原告商品表示においては「ANTISEPTIC」であるのに対し、ハ号容器においては「MEDICATED LOTION」である点が異なっているが、その余の点においては原告商品表示と共通している。
(二) イ号、ロ号及びハ号容器の各包装箱は、容器について述べた<1>の容器の形状を除くほか、同一であるから、原告商品表示との対比も同様となる。
(三) ところで、不正競争防止法一条一項一号にいう「商品ノ容器包装」の「類似」は、対比すべき二つの商品の出所につき混同を生ずるおそれがあるか否かを考慮して決すべきであるが、一般需要者は、商品購入の際過去に購入した商品の容器包装の詳細を記憶しているものではないし、二つの商品が常に同時に並べられ、容器包装の細部にわたり比較可能の状態で販売されるわけでもないから、全体的に、離隔的に考察すべきであって、容器包装の形状・記載等が取引者又は需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して、その容器包装のイメージを構成する主要な特徴部分において共通すれば、その容器包装は全体として混同されるおそれがあり、類似するものといわなければならない。
本件においては、原告商品表示と被告商品の各容器包装とは、<1>容器の形状、<2>余白の多い構成、<3>文字の横書き、<4>文字の色彩基調という基本的な部分のみならず、容器の正面が上部、中央部、下部に分けられ、その各部の表示が共通している点、即ち容器上部の<5>「FOR PROFESSIONAL & FAMILY USE」の表示と<6>「薬用ローション」の文字を含む表示、容器中央部の<7>縦長方形の青色地に白抜きの図形、<8>太字の英字の商品名、<9>「ANTISEPTIC」又は「MEDICATED LOTION」、<10>「SKIN AND SCALP」の各表示が、各記載されている点、容器下部の<12>英字による容量及び会社名の表示において共通しているから、イ号容器の特徴を構成する主要部分の殆どすべてが原告商品表示と共通しているということができ、前記認定にかかる取引の実情の下においては、これらはいずれも原告商品表示と類似するものということができる。
なるほど、イ号、ロ号及びハ号容器における商品名の違い、白抜き図形の違い、ロ号及びハ号容器における商品名の文字の色の違い、成分記載の有無、ハ号容器における「ANTISEPTIC」と「MEDICATED LOTION」の違い等があるけれども、全体的、離隔的に考察すると、原告商品表示と共通する部分が文字・図形の配置、色調等の容器における全体的なイメージを構成するうえにおいて重要な働きをするのに対し、右の差異点は全体的なイメージを構成するものではなく、細部にわたるものにすぎないというべきである。したがって、全体的、離隔的な観察においては、これらの差異点があるからといって、被告商品の各容器と原告商品表示との類似性の判断に影響を及ぼすものではない。
5 前記認定にかかる原告商品表示と被告商品の各容器包装との類似性、原告と被告ギンビとの従前の取引関係等の同被告が被告商品の販売に至るまでの経緯、原告商品と被告商品との市場の競合性、被告商品の販売代理店等における販売方法等の事実によると、被告ギンビ、同シーランド及び同インターナショナルによるイ号、ロ号及びハ号容器包装を用いた被告商品の製造販売行為は、原告商品との出所の混同を生じるおそれがあり、また原告がこれにより営業上の利益を害されるおそれがあることも明らかであり、また被告らが右にかかる行為を行うに当たり故意又は過失があったことも認められるものである。
被告らは、被告商品の販売先は専ら理美容院であるから、専門的知識を有する美容師等が原告商品と被告商品とを誤認混同することはないし、また一般の消費者も右の美容師等のアドバイスにより購入するものであるから、誤認混同することはない旨主張する。しかしながら、原告商品表示と被告商品の各容器との類似の程度や前記3で認定したような事実関係からすると、美容師等においても誤認混同するおそれがあるといわなければならないし、購入の際に的確な商品知識を有する美容師等により商品説明されるとは限らないのであるから、一般消費者において誤認混同するおそれは大きいといわなければならない。
また、被告らは、原告商品も被告商品も、その販売経路の全ての段階において包装箱に入れられて取引ないし展示されており、このような取引の実情からすると、原告主張のような誤認混同は生じない旨主張する。しかしながら、前記のような表示の特徴において被告商品の各容器とその包装箱との違いは、形状だけが相違するにすぎず、両者の正面部の表示は全く同一であるから、取引者・需要者において誤認混同するおそれは認められるものであって、右被告らの主張は理由がない。
6 右のとおりであるから、原告の本訴請求のうち、被告ギンビ、同シーランド及び同インターナショナルに対し、別紙「商品表示」記載の商品表示の使用等の差止めを求める部分は、理由がある。
7 次に、原告の受けた損害額について検討する。
(一) ところで、不正競争防止法一条の二第一項、一条一項一号に基づき損害賠償請求を行う場合、商標法三八条一項を類推適用することができるところ、前記1ないし4で認定したような、原告商品表示とイ号、ロ号及びハ号容器との類似性、経緯及び取引の実情等の事実関係の下においては、本件につき、その類推適用が許されないとする理由もないというべきであるから、以下この点について、検討する。
(二) 甲第四五、第四七号証、第六一号証の一ないし六、第六二号証の一ないし三、第六五号証、第六七号証、乙第一九号証、証人横田重紀の証言及び被告ギンビ代表者尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。
(1) 原告は、被告ギンビらから被告商品が販売される以前の昭和六〇年には年間約二四億円の売上高であったところ、被告商品が販売開始された昭和六一年には年間売上高が約一七億四〇〇〇万円に減少し、また、このような売上減少はその後も回復できないでいる等、被告らによる被告商品の販売により相当額の損害を受けている。
(2) 被告ギンビ及び同シーランドの被告商品の昭和六一年六月ないし八月の三か月間の売上高合計は約一億四〇二〇万円であり、その粗利益はその約三五%の約四九〇七万円であり、その純利益は右粗利益の約一〇%の約四九〇万七〇〇〇円である。
(3) 被告インターナショナルの昭和六一年六月ないし八月の三か月間の被告商品の売上高合計は、被告ギンビの売上高の約六五%である約九一一三万円であり、被告インターナショナルの純利益率は約五%であるから、右の間の被告インターナショナルの純利益は、四五五万六五〇〇円である。
(4) 右(2)(3)のうち、イ号容器の占める割合は約四割である。
(5) 原告商品や被告商品は統計上薬用化粧水に分類され、薬用化粧水の昭和六一年六月ないし八月の三か月間の出荷金額は、同年の一年間の出荷金額合計の四分一以下である。
(6) 我が国において生産される薬用化粧水は、昭和六一年以降平成三年までの間、その生産金額を次第に増大させ、また被告ギンビの右の六年間の売上高も大きな低下はなく、全体的には増加させている。
(7) 原告における原告商品の純利益率は二〇%である。
(三) 右(二)の認定事実によると、被告ギンビ及び同シーランドのイ号容器にかかる昭和六一年六月ないし八月の三か月間の純利益は一九六万二八〇〇円であり、被告インターナショナルのイ号容器にかかる同期間の純利益は一八二万二六〇〇円であって、これをもとに原告が損害賠償を求める期間である昭和六一年六月一日から平成三年五月末日までの、被告ギンビ及び同シーランドの受けた利益を、そして被告インターナショナルの受けた利益を算定しても何らの不合理はないから、次のとおりとなる。
a 被告ギンビ及び同シーランドの受けた利益 三九二五万六〇〇〇円
昭和六一年六月一日から昭和六三年五月三一日までの間
1,962,800円×(12か月÷3か月)×2(年)=15,702,400(円)
昭和六三年六月一日から平成三年五月三一日までの間
1,962,800円×(12が月÷3が月)×3(年)=23,553,600(円)
15,702,400+23,553,600=39,256,000(円)
b 被告インターナショナルの受けた利益 三六四五万二〇〇〇円
昭和六一年六月一日から昭和六三年五月三一日までの間
1,822,600円×(12か月÷3か月)×2(年)=14,580,800(円)
昭和六三年六月一日から平成三年五月三一日までの間
1,822,600円×(12か月÷3か月)×3(年)=21,871,200(円)
14,580,800+21,871,200=36,452,000(円)
(四) 右aの三九二五万六〇〇〇円が、商標法三八条一項の類推適用により、被告ギンビ及び同シーランドの不正競争行為により原告の受けた損害の額と推定され、原告は、これと内金一五七〇万二四〇〇円に対する昭和六三年六月一日から、内金二三五五万三六〇〇円に対する平成三年六月一日から各支払済みまでの遅延損害金の支払いを被告ギンビ及び同シーランドに対し求めることができる。
右bの三六四五万二〇〇〇円が、商標法三八条一項の類推適用により、被告インターナショナルの不正競争行為により原告の受けた損害の額と推定され、原告は、これと内金一四五八万〇八〇〇円に対する昭和六三年六月一から、内金二一八七万一二〇〇円に対する平成三年六月一日から各支払済みまでの遅延損害金の支払いを同被告に対し求めることができる。
(五) したがって、原告の右被告三名に対する損害賠償請求は、右の限度で理由がある。
8 被告らは、旧ブリストル社の被告ギンビに対する一連の背信的行為が信義則又は商業道徳に反するから、原告の請求は権利濫用である旨主張する。
しかしながら、事実関係は前記認定のとおりであって、被告ギンビらは、市場の流通機構を正しいものにすると称し、また乱売等市場の混乱をきたさないようにすると称して、理美容院に対し「安定した価格」で薬用ローションを販売する目的で、原告の周知の商品表示に類似するイ号、ロ号及びハ号容器を用いて被告商品を販売するという不正競争行為を行い、これがために原告に損害を被らせていたものであって、かかる被告ギンビらに対して、差止請求及び損害賠償請求をなしうることは当然であって、被告らの権利濫用の主張は理由がない。
二 被告インターナショナルに対する本件製造委託契約に基づく請求について
1 請求原因3(一)の事実(本件製造委託契約の締結の事実)、同(三)のうち被告インターナショナルが昭和六一年四月一八日に被告商品の製造承認を厚生省から取得したこと及び同被告が当該製造承認にかかる申請を原告との同契約期間中に行ったこと、同(四)のうち本件製造委託契約が昭和六〇年一二月三一日限り終了したこと及び被告インターナショナルが本件製造委託契約終了後被告商品を継続して製造販売していることは、当事者間に争いがない。
2 まず、被告インターナショナルが本件製造委託契約第二条の約定に反してい るかどうかについて、判断する。
(一) まず、本件製造委託契約終了後の被告インターナショナルの行為に対し、同契約第二条の適用があるかどうかについて、検討する。
甲第一八号証、丙第一号証、被告インターナショナル代表者尋問の結果、並びに弁論の全趣旨(商業登記簿謄本)によれば、(1)旧ブリストル社と被告インターナショナルとの間の本件製造委託契約の契約書である甲第一八号証の何処にも、被告インターナショナルに対し、同契約終了後、原告商品と類似する製品を製造販売してはならない旨の不作為義務を負わせた条項は存在しないこと、(2)被告インターナショナルは、化粧品、医薬部外品の製造等を目的として昭和四七年一一月七日に設立された会社であって、右契約が締結されるまで、主としてアフターシェーブローション、コロン、ヘアートニック等のいわゆるローション類を製造してきたこと、(3)被告インターナショナルは、右契約を締結する前、旧ブリストル社との委託製造に備えて、約一億四〇〇〇万円の設備投資を行い、五〇名の作業員を増員していることが認められ、また右契約第二条に規定されている「類似する」の語はその範囲が明確であるとはいえないし、また不作為義務の期間も明定されていないから、契約終了後にもかかる義務を課しているとすると、これは被告インターナショナルの事業活動を不当に拘束する条件をつけて取引をした場合に当たり、不公正な取引方法に該当すると考えられるのであり、これらの諸点を合わせて考慮すると、右契約は、契約終了後においてまで、被告インターナショナルに対し、原告商品に類似する化粧品又は医薬部外品の製造販売を禁じたものではないと認められる。
(二) 次に、被告インターナショナルが本件製造委託契約の契約期間中に第二条違反行為を行ったか否かについて、検討する。
前記のとおり、被告インターナショナルが被告商品の製造承認を昭和六一年四月一八日に取得したこと及び本件製造委託契約が昭和六〇年一二月三一日限り終了したことは当事者間に争いがなく、また前記被告インターナショナル代表者尋問分結果によると、製造承認は、その申請から半年ないし一年後になされるのが通常であり、被告インターナショナルは昭和六〇年一〇月頃被告商品の製造承認の申請をしていたことが認められるから(被告商品の製造承認の申請の時期が本件製造委託契約の契約期間中であったことは当事者間に争いがない。)、同被告が右契約期間中に、右契約における類似製品を製造していたかどうかが問題となる。
そこで、検討するに、丙第一号証及び被告インターナショナル代表者尋問の結果によると、(1)被告インターナショナルは、旧ブリストル社との製造委託契約を締結する前、この委託製造に備えて、約一億三九九〇万円の設備投資を行い、五〇名の作業員を増員したにもかかわらず、契約締結の僅か約二年半後の昭和五九年一一月二九日に同社から突然前記製造委託契約の解除を通知され、そのため翌昭和六〇年四、五月頃被告ギンビとともに新製品の開発に着手したこと、(2)薬用ローション等の化粧品製造業界においては、新製品の開発や試作は、市場に商品を供給する製造行為とは、全く異質、別個なものと考えられていること、(3)被告インターナショナルは、旧ブリストル社との契約終了後の昭和六一年四月以降、市販用の被告商品の製造を開始していること、以上の事実が認められる。これらの事実によると、本件製造委託契約第二条の「製造」とは、市場に供給する商品の製造行為を意味し、製造の前提となる製造承認の申請行為はもちろん、申請に必要な範囲内での試作行為もこれに含まれないと解するべきであって、被告インターナショナルが市販用の被告商品の製造を始めたのは同契約終了後であるから、被告インターナショナルが同契約期間中に原告商品と類似する市販用商品の製造行為を行った事実を認めることはできない。
(三) 右のとおり、本件製造委託契約第二条は、同契約終了後においてまで同被告の類似製品の製造行為を禁じているものではないし、また被告インターナショナルが市販用の被告商品の製造を開始したのは右契約終了後であるから、同被告に右条項違反行為があったということはできない。
3 次に、被告インターナショナルが本件製造委託契約の第五条及び第一二条に反しているかどうかについて、判断する。
(一) 前記争いのない事実、前記認定事実並びに甲第一八号証、第二三、第三五号証、甲第三八及び第三九号証の各一ないし三、第四九号証の一、二、丙第一号証、被告インターナショナル代表者尋問の結果、検甲第一ないし第四号証及び第六号証並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 被告インターナショナルは、化粧品、医薬部外品の製造等を目的として昭和四七年一一月七日に設立された会社であって、設立以来主としてアフターシェーブローション、コロン、ヘアートニック等のいわゆるローション類の製造に携わり、そして独自に薬用ローションを開発したうえ昭和五六年八月にはその製造承認を申請するなど、薬用ローションの開発製造について十分な能力を有していたこと
(2) 旧ブリストル社は、昭和五六年一〇月末ころ、被告インターナショナルに対し、原告商品の製造委託の打診をし、翌一一月頃同被告の工場で試作し、その際同被告に対し、製品の原料のパーセンテージ(成分割合)を示す処方を開示するとともに、原告製品のサンプルを交付したが、その他に開示ないし交付したものはないこと
(3) 旧ブリストル社から被告インターナショナルに示された処方の内容は、これまでローション類を長年にわたり製造してきた同被告としては、「オイルブレンド」と称する香料の他には特別なものはなく、そのオイルブレンドも、旧ブリストル社が米国から輸入したものをそのまま使用していたものであって、被告インターナショナルはその成分について開示されたことはないこと
(4) 被告インターナショナルは、その後の昭和五七年五月一九日、旧ブリストル社と本件製造委託契約を締結し(この点は当事者間に争いがない)、同社から原告製品の製造に関して正式に処方の開示を受けたが、試作段階で開示された処方以外に新しいものはなかったこと
(5) 委託製造の方式は、旧ブリストル社が製造元として、被告インターナショナルの分工場で製造するというものであったため、旧ブリストル社側から三、四名の技術者が工場に常駐し、同被告の従業員に指示する等して、原告製品の製造に当たり、また「製造指図及び記録書(秤量)」(甲第三八、第三九号証の各一)、「製造指図及び記録書(調合工程)」(甲第三八、第三九号証の各二)及び「原液試験結果記録表」(甲第三八、第三九号証の各三)等についても、薬事法上旧ブリストル社が保管義務を負うとともに、現に保管していたものであって、被告インターナショナルとしては交付を受けた書類はないこと
(6) 被告インターナショナルは、昭和五九年一一月二九日、突如原告から製造委託契約を翌昭和六〇年七月三一日限り解除する旨の通知を受け、また被告ギンビから受託生産の開発依頼があったこと等から、昭和六〇年四、五月頃新製品の開発に着手したこと
(7) 被告インターナショナルは、被告ギンビとともに清涼感のある製品を開発しようと考え、新しい薬用ローションを開発する上で最も重要な香料については、香料会社三社に開発依頼をしたうえ、その中から被告ギンビが最終的に決定し、昭和六〇年一〇月頃被告商品の製造承認の申請をなし、翌昭和六一年四月一八日製造承認を受けたこと
(8) 原告商品と被告商品は、いずれもエタノール・カンフル・ハッカ油・チョウジ油・安息香酸・オイゲノール・ユーカリ油を成分として含み、同一成分であるが、訴外丸山化学株式会社の製造にかかる「リグラクール」との名称の薬用ローションも全く同一成分であること
(9) 原告商品と被告商品の右各成分の成分割合は、エタノール及びdl-カンファーがほぼ同じ割合であるのに対して、安息香酸については、原告商品が、被告商品の約三倍であって、両商品は同一成分であるものの、その成分割合を同一にしているものではないこと
(二) 右各事実によれば、そもそも原告商品の製造責任を有し、製造作業の指示を行ったのは旧ブリストル社であって、製造指図書及び試験結果記録表等は旧ブリストル社ひいては原告自身が保管し、被告インターナショナルにおいて保管している書類はないというのであり、しかも旧ブリストル社は、原告商品の原料のパーセンテージ(成分割合)である「処方」を開示しただけで、この「処方」も香料以外に特別なものはなく、その香料も「オイルブレンド」とのみ記載され、その成分等を開示したことはないのであり、一方被告インターナショナルは、もともと薬用ローションの開発製造能力があり、被告商品についても、清涼感のあるローションを企図して、ローションの製造において最も重要な香料につき香料会社三社の香料を比較して決定し、また成分割合も原告商品の成分割合とは異なる等、原告商品とは別個独自に開発しているのである。
そうすると、旧ブリストル社から唯一開示された「処方」の内容は明らかではないが、被告インターナショナルは、原告商品とは別個独自に被告商品を開発したうえ、本件製造委託契約の終了後、被告商品の製造を開始したものであって、被告商品の開発に当たり、旧ブリストル社から開示された「処方」を「漏洩」「使用」ないし「流用」した事実を認めることはできず、他に被告インターナショナルにおいて、旧ブリストル社から開示された情報を「漏洩」「使用」ないし「流用」した事実を認めることはできない。
原告は、「シーブリーズ商品と他社類似コンセプト商品の香りの評価結果」と題する甲第三四号証を提出しているところ、同号証によれば両商品の香りが極めて類似していることが認められるが、前記のとおり、旧ブリストル社は原告商品の製造に際し、最も重要な香料については、単に「オイルブレンド」とするだけで、その成分については開示することなく、米国から輸入した香料をそのまま製造に使用していたのであり、一方被告インターナショナルは香料会社三社に依頼する等して清涼感のある香りを開発したのであるから、香りが極めて類似しているからといって、同被告が旧ブリストル社から開示された情報を使用して被告商品を開発製造したということはできない。
(三) 右のとおりであるから、被告インターナショナルが本件製造委託契約第五条及び第一二条に反しているということはできない。
なお、甲第一八号証によると、同契約第五条は、文言上旧ブリストル社が漏洩してはならない等の義務を負うかのようであるが、同条項の趣旨に照らし、また証人横田重紀の証言及び被告インターナショナル代表者尋問の結果に照らし、これが誤りであり、被告インターナショナルがこれらの義務を負うことは明らかである。
4 したがって、原告の被告インターナショナルに対する製造委託契約に基づく差止め及び損害賠償請求は、いずれも理由がないというべきである。
ところで、原告は、本訴において「別紙成分表記載と同一成分の商品」について製造販売等の差止めを求めているが、この「別紙成分表記載と同一成分」が何を指しているのか明らかでないといわざるを得ない。前記(一)(2)のとおり旧ブリストル社が昭和五六年一〇月頃の試作の際に開示した処方の内容が別紙成分表記載のようなものであるのか、別紙成分表記載の成分割合(前掲の各検証物及び甲第四九号証の一、二によると、少なくとも別紙成分表記載の成分は原被告の各容器のみならず、第三者の商品の容器にも明記されているところであるから、このような成分に秘密性があるとは認められない)が、旧ブリストル社から処方を開示される前に被告インターナショナルが製造していたローションや他社の製品にはみられないものであり、秘密性を有するものであるのか等々、全く明らかではなく、この点において既に原告の本訴請求は理由がないというべきである。
三 被告ギンビ及び同シーランドに対する本件販売契約に基づく請求について
1 請求原因4(一)、(二)の事実は当事者間に争いがない。
2 甲第一四、第一五号証、乙第一一号証、被告ギンビ代表者尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、旧ブリストル社と被告ギンビとの間で、昭和五六年一〇月一日締結され、昭和五八年三月二二日更新された本件販売契約の何処にも、被告ギンビに対し原告商品と類似する商品の販売を禁じることを内容としたり、これを示唆するような条項は存せず、これに対し、右契約締結後、更新前の昭和五七年五月一九日に旧ブリストル社と被告インターナショナルとの間で締結された本件製造委託契約には、「甲(旧ブリストル社)の依頼する製品に類似する化粧品又は医薬部外品等の製造又は販売をしてはならない」との明文の規定(第二条)が存する事実が認められるのであって、この事実からすると、本件販売契約においては、被告ギンビに対し、原告商品と類似する商品の販売をしないとの不作為義務を課してはいないというべきであり、他に被告ギンビが右のような不作為義務を負っている事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって、被告ギンビが本件販売契約期間中である昭和六一年六月一日から被告商品の販売を開始したことをもって本件販売契約上の義務違反ということはできないし、もちろん本件販売契約終了後に被告商品を販売していることをもって同契約上の義務違反ということもできない。
3 原告は、本件販売契約第一条は、同契約締結前、被告ギンビが原告商品の総販売店であったことから、同被告独自の販売権を否定した意味を有し、この条項により、同被告は、旧ブリストル社の許諾なしには、シーブリーズ商品と類似する商品を販売することができないという不作為義務を負ったものである旨主張する。
前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告ギンビは、昭和四四年から本件販売契約締結に至るまでの約一二年間、原告商品の総販売店として、傘下の多数の販売代理店を用いる等して、一手に原告商品を販売してきたこと、このような経緯があったからこそ、本件販売契約第一条に「甲(旧ブリストル社)は乙(被告ギンビ)に対してのシーブリーズ市場開発の実績を高く評価し、理美容市場に於ける商品の販売を継続して行うことを依頼する。但し、乙は甲が日本国内に於いて商品の専属的かつ排他的販売権を有していることを認める。」と約定されたこと、これにより被告ギンビが従来有していた総販売店としての排他的販売権は否定され、同被告はいわば販売代理店に格下げされたことが認められる。このように被告ギンビの従来の排他的販売権を剥奪して格下げしておきながら、更に厳しい類似商品の販売禁止義務を課するということは考えられず、前記のとおり時期を接して締結された他社との契約では類似商品の製造販売禁止義務を明定しながら、本件販売契約では明定していないことを合わせ考えると、本件販売契約においては、被告ギンビに対し類似商品の販売を禁止する義務を課したものではないと認めるのが相当であり、右原告の主張は理由がない。
4 右のとおり、被告ギンビに類似商品を販売しない義務がないのであるから、同被告がこの義務を有することを前提とする、被告シーランドに対する主張は理由がないことが明らかである。
四 被告シーブリーズに対する請求について
1 先ず、契約に基づく請求について判断する。
(一) 請求原因7(二)のうち、米国シーブリーズ社、ハトゥコ社及び被告シーブリーズが昭和四四年五月二三日シーブリーズ商品の日本への輸入及び販売に関して契約を締結したこと、米国シーブリーズ社及び被告ギンビが昭和五一年七月一日商標ライセンス契約を締結したこと、旧ブリストル社及び被告シーブリーズが昭和五六年一〇月一日クレイロール社の製造するシーブリーズの輸入及び販売に関する契約を締結したこと、旧ブリストル社と被告シーブリーズとの右契約は昭和五七年一二月末日限り終了したことは当事者間に争いがない。
(二) 右争いがない事実並びに甲第三、甲第一二、第一六、第一七号証、乙第一一号証、弁論の全趣旨によると、次の事実を認めることができる。
(1) 訴外植村秀は、ハリウッドで俳優が化粧落とし用にシーブリーズ商品を使用していたことに着目して、これを日本に輸入して販売することを決意し、知人を介して、その製造元である米国シーブリーズ社にシーブリーズ商品の日本への輸出及び日本での販売の許諾を求めたところ、同社はこれに応じた。
(2) 右植村は、日本において多数の化粧品関連企業にシーブリーズ商品の販売依頼をしたが、被告ギンビだけがこれに応じ、このため植村は昭和四四年二月四日、日本国内での輸入の窓口として、被告シーブリーズを現在の「株式会社日本シーブリーズ」との商号で設立し、登記簿上妻の植村恭子を代表取締役とした。
(3) 被告シーブリーズは、昭和四四年五月二三日、米国シーブリーズ社及びハトゥコ社とシーブリーズ商品の輸入・販売に関して契約を締結し、その中には、米国シーブリーズ社が被告シーブリーズ及びハトゥコ社に対し日本国内におけるシーブリーズの輸入・販売等の排他的権利を与える旨、被告シーブリーズとハトゥコ社が「シーブリーズ」の商号をシーブリーズの販売等に関してのみ使用するものとする旨、契約終了後においては被告シーブリーズとハトゥコ社は「シーブリーズ」の名称又はシーブリーズの商標もしくは商号を用いてはならない旨の各条項がある。
(4) 被告ギンビは、昭和五一年七月一日、米国シーブリーズ社と商標ライセンス契約を締結し、その中には、被告ギンビは、直接又は被告ギンビ若しくはその株主と直接間接に関係している第三者を通じて、基本契約期間中だけでなく、契約終了後においても商号中にSEA BREEZEを使用しない旨の条項がある。
(5) 被告シーブリーズは、代表者が被告ギンビの代表者と同じであるばかりか、その取締役及び監査役はいずれも被告ギンビの取締役の中から選任されたものであって、被告シーブリーズは被告ギンビの実質的な子会社である。
(6) 米国シーブリーズ社は、昭和五四年五月、米国のブリストル・マイヤーズ・グループの一員であるクレイロール社に吸収合併された。
(7) 旧ブリストル社と被告シーブリーズは、昭和五六年一〇月一日、右クレイロール社が製造するシーブリーズの輸入及び販売に関する契約を締結し、その中で、同被告は、旧ブリストル社が日本国内におけるシーブリーズの専属的かつ排他的な商標権を有すること、及び同社がシーブリーズ商品の専属的かつ排他的な販売権を有することを認めた。
(8) 被告シーブリーズと旧ブリストル社との右契約は、昭和五七年一二月末日限り終了し、被告シーブリーズはシーブリーズ商品の輸入・販売等の業務を行わなくなった。
(9) 旧ブリストル社は、平成二年一〇月、原告に吸収合併されたが、原告は右ブリストル・マイヤーズ・グループに属し、日本国内において、同グループのうち医薬品、医薬部外品、化粧品、栄養食品等の製造販売を行っている。
(三) 右(二)の各事実によると、被告シーブリーズは、もともとシーブリーズ商品の日本への輸入及び販売をするために、その輸入及び販売につき米国シーブリーズ社の許諾を得たうえ設立されたものであり、そのため昭和四四年五月二三日に米国シーブリーズ社らと締結された契約では契約終了後においては「シーブリーズ」の名称・商号を用いない旨の条項が設けられ、しかも被告ギンビも米国シーブリーズ社に対し直接間接に関係する第三者に契約終了後に「シーブリーズ」の商号を使用させないと約しているところ、被告シーブリーズは実質的に被告ギンビの子会社であり、そのうえで被告シーブリーズは、昭和五六年一〇月一日、旧ブリストル社と締結した契約中において、旧ブリストル社が日本国内におけるシーブリーズの専属的かつ排他的な商標権を有することを認めたものであって、このような事実からすると、被告シーブリーズは、旧ブリストル社との右昭和五六年一〇月一日に締結した契約において、シーブリーズ商品を取り扱わなくなったときには、「シーブリーズ」の名称ないし商号を使用しない旨約したものと認めるのが相当である。
そして被告シーブリーズは、昭和五七年一二月末日限りシーブリーズ商品の輸入・販売等の業務を行わなくなったのであるから、同被告は、前記契約に基づき「株式会社日本シーブリーズ」との商号、「シーブリーズ」との表示を使用してはならず、その商号を変更しなければならないものというべきである。
(四) 右のとおり、被告シーブリーズに対し、商号の使用差止め及び抹消登記手続を求める請求は理由がある。
2 被告らは、旧ブリストル社の被告ギンビに対する一連の背信的行為が信義則又は商業道徳に反するから、原告の請求はいずれも権利濫用である旨主張するが、仮に原告が被告ら主張のような行為を行ったものであるとしても、被告シーブリーズに対し商号使用差止めを求める関係においては、その行為をもって権利濫用ということはできず、被告らの右主張は理由がない。
五 結論
以上によれば、原告の本訴請求は、被告インターナショナル、同ギンビ及びシーランドに対し別紙商品表示記載の商品表示の使用差止等を求め、被告インターナショナルに対しては主文第四項記載の金員の支払いを求め、また被告ギンビ及び同シーランドに対し主文第五項記載の金員の支払いを求め、更に、被告シーブリーズに対し、「株式会社日本シーブリーズ」との商号及び「シーブリーズ」の表示の使用等の差止及び商号の抹消登記手続を求める限度において理由があり、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 一宮和夫 裁判官 足立謙三 裁判官 前川高範)
商品表示
別紙容器目録中の第一図及び第六図に例示され、左記内容を有する容器包装についての商品表示
記
純白色の円筒型容器(縦横比約三対一)または包装箱(縦横比約三・五対一)であり、その正面において、容器上部に青色で「FOR PROFESSIONAL & FAMILY USE」の文字、その下に青色で「皮フの清浄・全身薬用ローション」の文字、その下に大きく余白をとって、中央部に、縦長方形の青色地に白抜きで星のマークとその左下の銀色で太字二段の「SEA LAND」の文字、その下に青色で「ANTISEPTIC」または「MEDICATED LOTION」の文字、その下に余白を置いて青色で「SKIN AND SCALP」の文字、その下に大きく余白を置いて下段に青色で英文の容量、その下に青色で英文の会社名が、いずれも水平方向に記載されており、これらが、純白色地に余白の多い構成で、青色を基調として、上段から下段まで平行して整然と配列されているもの。
容器目録
原告第一容器 別紙第五図(一)ないし(三)のとおり
原告第二容器 別紙第四図(一)ないし(三)のとおり
原告第三容器 別紙第三図(一)ないし(三)のとおり
イ号容器 別紙第二図(一)ないし(三)のとおり
ロ号容器 別紙第一図(一)ないし(三)のとおり
ハ号容器 別紙第六図(一)ないし(三)のとおり
第一図(一)正面
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第一図(二)裏面
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第一図(三)正面斜め上から見た状態
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第二図(一)正面
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第二図(二)裏面
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第二図(三)正面斜め上から見た状態
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第三図(一)正面
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第三図(二)裏面
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第三図(三)正面斜め上から見た状態
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第四図(一)正面
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第四図(二)裏面
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第四図(三)正面斜め上から見た状態
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第五図(一)正面
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第五図(二)裏面
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第五図(三)正面斜め上から見た状態
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第六図(一)正面
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第六図(二)裏面
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第六図(三)正面斜め上から見た状態
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成分表
精製水を溶媒とする液体であり、左記溶質を左記重量割合で含む。
記
エタノール 三九ないし四一パーセント
カンフル 一パーセント未満
安息香酸 〇・五パーセント未満
ハッカ油 微量
チョウジ油 微量
オイゲノール 微量
ユーカリ油 微量
商標目録(一)
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商標目録(二)
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商標目録(三)
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